ヒューマノイドロボットの現在地―AIが変える“動く機械”の設計 エンジニアリング | コラム

ヒューマノイドロボットの現在地―AIが変える“動く機械”の設計

イーロン・マスクが2021年に高性能人型ロボット“OPTIMUS(約300~450万円)”の構成を発表したのもつかの間、

中国のUnitree Roboticsが2025年に約4万元(約80万円)の低価格人型ロボットを発売しました。

Unix AIからも約8万元で人型ロボットを発売するなど次々に販売がスタートし、日本でも代理店が中国製人型ロボットを

扱い始めています。

また具体的な活用として、現代自動車が、米国の生産工場で、

傘下のBoston Dynamics社が開発した人型ロボット約3万台を活用し、自動車の生産に乗り出すと報じられています。

ハーフマラソンを50分以内で走破し、注目を集めている今注目のマラソン用人型ロボットと、

すでに産業で活躍する協働ロボットの技術的な違いを比較してみます。

①人型ロボットにはエネルギーの縛りがある

すでに実用化され、普及段階のAGV(※)や自動掃除ロボットは、バッテリー容量がそのまま作業量や稼働時間に直結します。

AGVは、職場の重量制限内であればより大容量のバッテリーを搭載することは可能ですが、

軽やかな動きが期待される人型ロボットは、搭載できるバッテリー容量には限度があります。

※) Automated Guided Vehicleの略で、自動で決められたルートを走行し、物品の搬送を行う無人搬送車のこと。

体重60kgの人間がハーフマラソンで1,300Kcal/h消費すると仮定し、仕事量に換算すると1.5KWhとなります。

これをバッテリーに換算すると約10kgの重量となり、その重さは優勝した人型ロボの重量45kgに対し20%を占めるほどになります。

このエネルギーを無駄なく使う機構設計が重要です。

②人型ロボットの位置制御はどこまで精度が必要?

協働ロボットは細かな作業を確実かつ高速に実行することが求められるので、アームの位置ずれなどは極力抑える必要があります。

一方、マラソン用人型ロボットは「走ること」に特化しており、前方のみ認識できれば問題ないので、

短距離・低速での検知であれば、小型のミリ波レーダー1基でも対応可能かもしれません。

追い抜き時もミリ単位で接近する必要はないため、前方に対象物を見つけたときに

進路が重ならないようにずらす程度で十分だと考えられます。

③動物の動きを参考にした設計

協働ロボットはアームを用いて複雑な作業を行いますが、その動作は人の腕とは大きく異なります。

精度とスピードを重視するため、人の腕では不可能な動作も可能としています。

一方、マラソン用人型ロボットでは「ヒトが走る」という前提に基づいて設計されています。

そのため、2本足で前進させるためにはバランスをとるための腕振りが必要となり、歩幅もヒトと同程度となっています。

このように、人型ロボットは人の動きをベースとして、目的に応じて不要な機能を減らしていく、そんな構造になっているようです。

フィジカルAIの台頭により人型ロボットは近年劇的に進化しています。

フィジカルAIはトラブルを回避するように動作をコントロールするため、

従来ハードウェア(ロボット本体等)が担ってきた課題をソフトウェア側(AIや制御プログラム等)で解消できるようになってきました。

これはクルマの自動運転と同じ構図です。

時速60㎞で走行するクルマは、数秒後に起こりえる状況を予測しながら、センサー等で得たデータを解析して動作を判断し続けます。

一方、人型ロボットの動作はシンプルであり、求められる判断の複雑さは異なります。

「絶対にぶつからないのであれば、クルマの外板は紙でも成立する」という極論まではいかずとも、

これまでハードウェアが担ってきた安全確保のための機構をソフトウェアで対応できるようになれば、

ハードウェアの設計は極めてシンプルかつ軽量化することができます。

そうなれば、ハードウェアの構造もとことん追求でき、エンジニアとしてはやりがいがある分野であるといえるでしょう。