“少し先”のプラスチック技術をつくり、社会で機能するかたちへ―工学院大学 西谷要介教授とともに進める、プラスチック開発のこれから ともつくニュース

“少し先”のプラスチック技術をつくり、社会で機能するかたちへ―工学院大学 西谷要介教授とともに進める、プラスチック開発のこれから

バイオマスプラスチックは、植物由来の原料からつくられる材料であり、環境負荷の低減につながるとして注目され、レジ袋や食品容器など日用品での利用はどんどん広がっています。しかし、高い耐久性が求められる機械部品としての活用はこれからです。工学院大学 高分子材料研究室の西谷要介教授は、機械工学の視点から、100%バイオマスプラスチックベースの材料での機械部品開発にチャレンジしています。

西谷 要介

2006年まで企業にてシール製品および材料の設計・開発・研究に従事。現在は、母校である工学院大学 工学部 機械工学科の教授として、高分子材料研究室にて、「機械材料としての高分子材料・複合材料」を中心に、成形加工、トライボロジー、機械的性質など、“機械工学”ならではの視点から高分子材料の研究を行っている。

✔なぜいま、新しいプラスチックが求められているのか

スターライト(ス):先生のご専門は機械工学ですが、「高分子材料研究室」という名前は、化学系の研究室っぽいですね。

西谷教授(西):よく言われますね。

私たちは、高分子材料(プラスチック)を成形してカタチにするだけでなく、実際に製品として機械装置の中でどう使われ、どう役立っていくのかまで考えて開発すれば、もっと社会で活かされるのではないかと考えています。だから、機械工学の視点での高分子材料研究室が必要なのです。

:実情を理解した研究活動になっているわけですね!

そのなかで、バイオマスプラスチックをテーマにされた理由を教えてください。

西:化石資源の枯渇やCO₂排出による環境問題が注目される中で、CO2を吸収して育つ植物由来原料を使った高性能なバイオマスプラスチックがどんどん開発されています。そうした新しい材料を、とことん使いこなしてみたいと考えたからです。スターライトとの共同研究では、植物由来のポリアミドをベースとした、摩擦摩耗特性や機械強度などを高めた機械部品向け材料の開発に取り組んでいます。特に、歯車や軸受、シールなどの“長期間使われる部品”への適用を見据え、放射線架橋による材料改質なども検討しています。

✔なぜ企業とともに進めるのか

:研究室の設備を見学させていただいて、材料開発から成形、評価まで一貫してできる環境に驚きました。

スターライトの開発現場とほとんど変わらない印象を受けます。

 

西:材料は、混ぜ方や成形方法など、つくり方によって性能が大きく変わります。だから、その“履歴”をしっかり把握することが大切だと考えているので、一連のプロセスをできるだけ自分たちで扱える環境を整えているんです。

:ここまで設備が揃っていると、先生の研究室内で開発が完結できそうです。それでも、企業と一緒に進める理由は何でしょうか。

西:たしかに、あるレベルのことはできますが、最終的に製品として使うためには企業との連携が欠かせません。“実際の使用条件”や“製品の要求仕様”の情報は企業のほうが豊富にお持ちですし、量産や品質の重要なポイントも、市場経験がないと分かりません。

その点、スターライトは精密機械部品を長年量産してきた経験がありますし、ものづくりや評価のノウハウも豊富です。材料特性だけでなく、実用を考慮した課題抽出や摩擦摩耗評価方法まで含めて議論できるのが大きいですね。実際の機械部品としてどう使われるのか、どの特性を優先すべきなのかといった視点は、企業と一緒でないと見えてきません。

:研究と市場経験がつながることで、“実際に使われる製品”に近づくのですね。

西:私たちが取り組んでいるのは、企業が取り組むにはまだ早すぎるかもしれないけれど、将来的には必要になる“少し先”の領域だと思っています。企業にとっては将来の選択肢になりますし、大学としても実際の用途を意識した研究ができる。だからこそ、一緒にやる意味があるのだと思います。

✔研究を通じて人を育てる

:材料をつくるだけでなく、その先まで意識して取り組めるのは、学生にとってやりがいがありそうですね。ここまで一貫して経験できる環境は、なかなかないと感じました。

 

西:やっぱり、何のためにやっているのかが分からないと、やらされ作業になってしまうし、続かない。だから、実際に使われるカタチにして、評価するところまでやりきることで、「自分のやっていることには意味がある」と実感できるようにしています。教科書や論文を読んで知っているだけではなく、“自分でやった実感がある”という経験は、社会に出てから効いてくると思います。

実験装置を前に、学生と研究内容について議論する西谷教授

:研究を通して学生と向き合ううえで、大切にされていることは何でしょうか。

西:本来は、「自分がやりたいことを自由に突き詰めてほしい」という思いがあります。ただ、いきなり「自分で考えろ」と言っても難しい場合も多いので、最初は私からテーマを与えてやってもらって、まずは手応えを感じてもらいます。そこから少しずつ考えることを増やしていくと、自主性を持って動ける学生が増えてきます。昔のように背中を見て学べ、技術は盗めとはいかず、時代に合わせて指導の仕方も変えていく必要があるなと日々感じています。

:成功体験を積んでいくことが大切なんですね。

西:そうですね。研究を進める中で、ものづくりの一連の流れがつながって見えてくると、自分で考えられるようになります。そうなると、「これがおもしろい」「これをやりたい」と、自発的に動けるようになっていくんです。たとえば、スターライトと共同研究に取り組んでいた学生は学会で賞もいただきました。研究成果を外に発信して評価される経験は、学生にとって大きな自信になると思っています。

最近では、そうした経験を積んだ学生が、卒業してメーカーに就職した後に、「先生、一緒に研究しませんか?」と声をかけてくれることが増えてきました。研究者として、これ以上うれしいことはないですね。

✔社会で機能する“100%バイオマスプラスチック材料”をともにつくる

:最後に、スターライトとの共同開発で目指すことはなんでしょうか?

西:バイオマスプラスチックは、いまはまだ日用品での利用が中心ですが、耐久性などの機械特性が求められる機能部品用途で、石油由来プラスチックと組み合わせて使われているケースが増えてきています。けれども私たちは、あえて100%バイオマスプラスチックベースで機械部品として成立させることに挑戦しています。

実際に、放射線架橋によってPA1010の耐摩耗性や限界PV値(摩擦にどこまで耐えられるかを示す指標)が向上することも確認できており、バイオマスプラスチックを耐久部品へ応用できる可能性が見えてきています。ただ、バイオマスプラスチックはまだ新しい材料なので、量産時のコストや品質の安定性といった課題もあります。だからこそ、スターライトとしっかり対話しながら、そうした課題を一つひとつクリアしていくことが重要だと考えています。そうして私たちが開発した材料が、製品として世の中に広まり、その積み重ねが環境負荷の低減にもつながっていく。そうした社会をつくっていきたいですね。

高分子材料研究室にて。西谷教授(中央)、森野助教(右)とともに。