親子でスポーツ観戦を楽しむ─親が「喜ぶだろう」「楽しませたい」と思って選んだ体験が、発展途上のこどもの脳には負荷となることがあります。この課題に真正面から挑んでいるのが、比治山大学短期大学部 幼児教育科の七木田方美教授。こどもの聴覚を守るイヤーマフ「OmimimO(おみみも)」を開発し、社会に新しい習慣を広めようとしています。今回は、その思いや背景について伺います。

🎧OmimimOプロジェクトとは?
サッカー愛とコロナ禍の気づきから始まった、小さなイヤーマフの物語
ス(スターライト):大きな音でこどもがぐったりしてしまうこと、1児の母としても気になります。
先生はその解決策としてイヤーマフ「OmimimO」を提案されてますよね。どんな思いで始められたのでしょうか?
七(七木田教授):OmimimOは製品というより、社会へのメッセージなんです。
「こどもの発達にもっと関心を寄せよう、一人ひとりの尊厳を重んじよう!」という呼びかけをカタチにしたプロジェクト。
私は、社会全体でこどもを見守る文化をつくりたいんです。
ス:その思いに至るきっかけを教えてください。
七:大きく2つあります。ひとつは、私の“サッカー愛”と“サンフレッチェ愛”です(照)。
Jリーグには「スポーツで、もっと、幸せな国へ」というスローガンがあって、なかでも、サンフレッチェ広島のホームスタジアムは、まさに“幸せの本拠地”。
人々を幸せにしたいという愛が、スタジアムの雰囲気にも、運営の取り組みにもあふれてる。だからこそ、赤ちゃんからご高齢の方まで、たくさんの家族が観戦に訪れるんです。
特に未就学児が多いのは、日本のスタジアムの魅力でもあります。サッカーの本場 ヨーロッパとはまた違う、“家族で楽しめる場所”として根づいているんです。

すごく素敵な光景。でもその一方で、私はずっと思っていました。―あの大音響、こどもにはどうなのかなあ?と。
ス:スタジアムの熱気とこどもの感覚の繊細さを同時に見ていたからこその視点ですね。
七:もうひとつは、コロナ禍です。
未就学児が社会の議論から抜け落ちているように見えて、親子のアタッチメント形成の研究者として敗北感と危機感を覚えました。
「今」を逃しちゃいけない、そう思って動き出しました。
🎧「おみみ」に注目した理由とは?
「耳は閉じられない感覚」―3歳児の答えが教えてくれたこと
ス:視力や言葉の発達はよく話題になりますが、先生が「耳」に注目したのはなぜですか?
七:理由をお話する前に、ひとつ質問しますね。
あるとき、3歳児に「お話は、どこで聞いてる?」と尋ねたんです。どんな答えが返ってきたと思いますか?
ス:うーん…耳じゃないってことですよね?
七:「みみ」と答えた3歳児は一人もいませんでした。「め!」「お顔で聞いとる」と声があがり、なかには「わかった!」と立ち上がり、真剣なまなざしで鼻を指して「鼻で聞いとる!」と全身で教えてくれる3歳児もいました(笑)
こどもって、耳だけで聞いているわけじゃないんです。目も、顔も、鼻も、身体も、すべてをこちらに向けて“聴いて”いる。
ス:私の娘も3歳なんですが、もう“聴く”ができてるんだ…!

七:私が「おみみ」に注目した理由は、まさにそこが“スタート”なんです。
こどもは耳だけでなく、目も心も話し手に傾けていて、“聞く”ではなく“聴く”という姿勢を自然に持っている。
赤ちゃんを観察すると、共感しながら相手に向き合う「傾聴技法」の原型を生まれながらに備えているのでは…と感心します。
ス:こどもや赤ちゃんは、私たちの声を聴いて、そのニュアンスまで感じ取るんですね。
七:そんな大切な器官である耳はずっと“開きっぱなし”なんです。
刺激を受け続けているのに、目や口ほどには労わってもらえない。耳は皮膚と同じで、優しい声は優しく撫でられているように快く、
大きな怒鳴り声やキンキンした高音は“叩かれている”のと同じ刺激になります。
ス:叩かれている…こどもにとっては“痛い”という感覚になるのでしょうか?
七:びっくりしますよね。こんな視点で音を気にしたことって、あまりないと思います。
刺激が強すぎると「侵襲刺激」になって痛みとして届きます。脳の発達途上にあるこどもの耳は大人よりもずっと敏感で、
感覚の使い方を練習している真っ最中。だからこそ、聴覚保護は本来、こども全員に必要なんです。
ス:光の刺激は知っていましたが、音の刺激問題は知りませんでした。この課題を、OmimimOを通じて啓発されているのですね。
🎧みんなで着けるカルチャーをつくる!
「恥ずかしい」から「かっこいい!」へ
ス:イヤーマフって、“聴覚過敏の方が着ける特別なもの”というイメージがありますよね。
七:そう思われがちですが、本当は脳の発達途上であるこども全員に必要です。
耳の過敏さがあるこどもたちが集団生活で疲れ切ってしまい、本来の力が発揮できず、なんてこともありますから。
ス:イヤーマフで楽になるのに、もったいないですね…。
七:「目立つから嫌」と外してしまう子も多いからこそ、“みんなで着ける文化”をつくりたいんです。
ス:たしかに、こどもあるあるですね。自分だけ着けるのは「イヤだ!」ってなりそうです。
七:海外のスタジアムでは、こどもがイヤーマフを着けるのは“当たり前”。
ベルリン大学の先生に理由を尋ねたら、不思議そうな顔で「スタジアムの大きな音が、こどもの脳の発達によくないことを、
みんな知っているからだよ」と、さらりと言われて、ハッとしました。
ス:欧州のように、こどもの耳を守ることが“普通のこと”として広まれば、日本も変わりそうですね。
七:もし日本でも、かっこいい応援用のイヤーマフを誰もが自然に着けるようになったら―日常生活でイヤーマフが必要なこどもたちも、恥ずかしさがなくなるかもしれない。私はそんな光景を、ずっと夢に描いています。
ス:「恥ずかしい」から、「いいね、それ!」に価値がひっくり返る瞬間、想像しただけでワクワクします!

七:そうでしょう? その“ワクワク”がすごく大事なんです。
「守るための道具」から「かっこいい応援グッズ」になるだけで、人の意識はガラッと変わる。
大人の意識が変われば、こどもたちの育つ環境が整って、こどもたちの生きやすさが変わるんです。
