海を“見える化”するスタートアップ─Honda発「UMIAILE」板井亮佑氏が語る、“高度ゼロメートルの人工衛星”構想(前編) ともつくニュース

海を“見える化”するスタートアップ─Honda発「UMIAILE」板井亮佑氏が語る、“高度ゼロメートルの人工衛星”構想(前編)

「高度ゼロメートルの人工衛星をつくる」—そんなビッグスケールの夢を語るのは、海洋観測に挑む株式会社UMIAILE(ウミエル)代表 板井亮佑氏。かつて、Hondaで自律移動ロボットを開発していたエンジニアが、なぜ「海の見える化」を目指すに至ったのか。そこには、ものづくりへの飽くなき情熱と、仲間との深い信頼がありました。

「人の力で空を飛ぶ」感動が、ものづくりの原点だった

スターライト(以下、ス):板井さんとお話ししていると、ものづくりの楽しさを体現されている方だと感じます。その原点は、どんなところにあるのでしょうか?

UMIAILE 板井氏(以下、板):子どもの頃から工作が大好きで、高専に進学してからはバイクいじりにのめり込みました。その後、大学に編入して出会ったのが“人力飛行機”。設計を担当しつつ、パイロットも務めていたんです。自分の足で漕いだ力だけで空を飛ぶ—あの瞬間の感覚が忘れられなくて。Hondaに入ってからも、社内で人力飛行機や電動飛行機を作り続けていました。

:学生時代の感動を、社会人になっても変わらず追い続けているのですね…!

:そうなんです。人間の力ってたかが知れているけれど、その力で自分の体を空へ持ち上げられる。その不思議さと感動が、私のものづくりの面白さそのものでした。やがて、「この飛行機の技術を船に応用したらどうだろう?」と考え始めたのが、UMIAILEにつながる最初のきっかけです。

「趣味の延長」が、いつの間にか事業の原型に

:そこから、どのようにUMIAILEへと繋がっていったのでしょうか?

最初は社会課題を解決したいというより、技術的な興味から始まりました。誰に頼まれたわけでもなく、ただ「これを作ってみたい」という気持ちで、夜な夜な開発していたんです。仕事が終わってから実験をして、朝になったら川でテストして、それから出勤して…。そんな日々を2年ほど続けていましたね。

 

:2年も!?それほどまでに板井さんを突き動かしたものは、何だったのでしょうか?

UMIAILE ASV(プロトタイプ)

:そうですね。純粋に、動くものを自分の手でカタチにできるのが嬉しかった。最初は“趣味”の延長だったんですが、やっていくうちに「これを仕事として本気でやりたい」と思うようになりました。

:好きなことを“やりたい”だけで終わらせずに、ちゃんと行動に移される。その行動力、とても尊敬します。

:ありがとうございます(照)

その後、思い切ってHonda社内で研究テーマとして提案したんです。その後、新事業開発プログラム「IGNITION」に応募して、すべての審査を突破しました。自分の中では、あのときが“趣味”から“志”に変わった瞬間だったかもしれません。

:Hondaという大きな組織の中で、新しいことに挑戦するのは簡単ではなかったと思います。

:確かに、いろんな制約はありました。でも同時に、挑戦を応援してくれる仲間や、見守ってくれる上司がいた。自分の想いをカタチにする場を与えてもらえたことには、今でも感謝しています。

技術シーズから社会ニーズへ—「海底地殻変動観測」に挑む理由

:UMIAILEのテーマである“海の見える化”は、今や社会的にも注目されていますが、最初から海洋観測を目指していたわけではないと伺いました。

:そうなんです。最初は漁業の課題を解決したいと考えていました。魚群を探知して、漁師さんの“空振り”を減らせないかと。でも、検討を進めるうちに採算性の難しさが見えてきて、方向を転換しました。

:漁業から地殻変動観測へ、ずいぶん思い切ったピボットですね。その背景には、どんな気づきがあったのでしょうか?

:“海の見える化”という大きなテーマを見つめ直したときに、まずは「海をどう観測するか」そのものを変えないといけないと気づいたんです。いま注力しているのが「海底地殻変動の観測」。南海トラフなどのプレートの動きを捉え、地震のメカニズム解明につなげていく取り組みです。

:ものづくりの視点から、そんな領域に踏み込まれるとは驚きです。なぜそのテーマを選択されたのでしょうか?

:研究者の方々とお話するなかで、「次の地震でデータを取り逃したら、次は100年後かもしれない」と聞いたんです。その言葉が胸に刺さりました。観測の頻度を上げることは、地震の研究だけでなく、防災や命を守ることにもつながる。「今やらなければ!」と、心が決まりました。

:研究者の方々の熱量と、板井さんたちの技術が呼応しているように感じます!

:本当にそうなんです。僕らが開発している小型ASV(自律航行型無人船)は、海の上を自動で動きながら観測を行うボートです。無人で長時間データを取り続けられるのが特長で、これまで観測船では到底実現できなかった頻度で観測ができます。それが実現すれば、海の研究がまったく新しいステージに入ると思います。

:まさに、“技術シーズから社会ニーズへ”の進化ですね。つくる喜びが、社会を変える力に変わっていくのが、とてもドラマチックです!

:漁業から地殻変動観測へのピボットは、自分としてはかなり重い決断でした。でも、自分たちの技術が、誰かの研究や次の挑戦につながっていく。そう考えると、あのとき決断して良かったと思います。

🚢漁業から地殻変動観測へ─。
“技術シーズ”から“社会ニーズ”へと向かった板井氏の挑戦は、やがて信頼できる仲間との出会いへとつながっていきます。
次回は、UMIAILE誕生を支えたチームの絆、そしてスターライトとの共創の舞台裏をお届けします。(👉後編へ続く