海を“見える化”するスタートアップ─Honda発「UMIAILE」板井亮佑氏が語る、“高度ゼロメートルの人工衛星”構想(後編) 特別対談

海を“見える化”するスタートアップ─Honda発「UMIAILE」板井亮佑氏が語る、“高度ゼロメートルの人工衛星”構想(後編)

「高度ゼロメートルの人工衛星をつくる」—そんなビッグスケールの夢を語るのは、海洋観測に挑む株式会社UMIAILE(ウミエル)代表 板井亮佑氏。“個人の情熱”を事業へと進化させたのは、同じ志を持つ仲間との出会いでした。後編では、板井氏と仲間たちがどのようにしてチームを築き、スターライトとの共創へと歩み出したのか。その裏側をひも解きます。

仲間との出会いは「魔改造の夜」から

スターライト(以下、ス):これだけ大きな挑戦をカタチにしていくには、信頼できる仲間の存在が欠かせないと思います。現在のUMIAILEメンバーとは、どのように出会われたのでしょうか?

 

UMIAILE 板井氏(以下、板)発足メンバーの私、CTOの海野、COOの中島は、3人とも元Hondaのエンジニアです。海野とは同期で、最初はほとんど話したことがなかったんですが、NHKの『魔改造の夜』で同じチームになったのが出会いでした。

 

:あの“ぶっ飛んだ発想力とチームワーク”で話題の番組に出演されたんですか!?

UMIAILE創業メンバーの3人(左から中島COO, 板井社長, 海野CTO)

:そうなんです(笑)番組のテーマが「モノを本気で改造して限界に挑む」みたいな内容で、お互いの得意分野を活かして、一晩中設計して、朝に試作して…。そのときに、彼のものづくりに対する感覚が自分とすごく近いと感じたんです。

:なんだか、社内でやっていた板井さんの“趣味”に近い感じがします。それをチームでやった、という感覚でしょうか。

:まさにそんな感じです。ものづくりに“正解”がない中で、どんな状況でも手を動かしながら最善を探る。そういうスタンスに共感して、「一緒にやろう」と声をかけました。そして、断られました(笑)

:え、いまの流れだと、鳴り物入りでジョインする感じだったのに…!

:ですよね(笑)

でも当時、彼も転職することが決まっていて、「今はちょっと難しい」と言われてしまって。でも、しばらく経って何気なくテレビを見てたら転職先で「魔改造の夜」に出てたんですよ、彼。驚きましたが、縁を感じて。やっぱりものづくりが好きなんだなと。そこで、もう一度声をかけたら、「それなら一緒にやりましょう」と言ってくれました。そこからは、二人で“次に誰を巻き込むか”をずっと話していました。最初に思い浮かんだのが中島です。

:当時、中島さんはIGNITIONの事務局にいたとお聞きしています。

:そう。Hondaの社員が起案者として応募して事業開発を進めていくんですが、たいてい私のように研究所出身のエンジニアなんです。だから、なかなかビジネスのセンスって持ち合わせていない。そうした起案者をサポートするために、事務局メンバーが伴走支援としてプロジェクトに入る仕組みがあります。その伴走者として最初から関わってくれていたのが中島でした。

:つまり、中島さんは“支援側”として関わっていたんですね。

支援者の立場にも関わらず、中島はすごく熱い男で。一緒に進めていくうちに、この事業にどんどん魅力を感じてくれていましたね。彼はMBA取得直前のタイミングでもあったので、僕と海野も「やっぱりビジネスの視点を持ったCOO的な存在が必要だよね」と話して、まさにUMIAILEにうってつけじゃないかと。

:情熱のシンクロと専門性のマッチングが奇跡的です…!

:それで、海野と「これ、このまま中島さんを引きずり込もうよ」と話して(笑)それなりの覚悟を持ってお願いしたんですが、むしろ「そう言ってもらえるのを待ってた」と言わんばかりの勢いで、二つ返事で快諾してくれました。

:IGNITIONの事務局サイドをどうやって引き抜いたのかな?って思ってたんです。そういう経緯だったんですね。

:彼自身も、「伴走する以上は、一緒に創業するくらいの気持ちでやらないといけない」と常々思っていたそうです。とはいえ、実際にそこまでコミットしてくれる人はなかなかいない。ある意味、創業したときから“深い信頼でつながった関係”ができていた。そこから、3人でUMIAILEとして歩み出しました。

スペック前から共に創る─UMIAILEとスターライトの関係とは?

:UMIAILEが掲げる“海の見える化”というミッションにおいて、スターライトとの共創も重要なパートナーシップのひとつだと伺っています。最初の接点はHonda時代で、当時からスターライトの「BARIAS」に惹かれていたとのこと。

 

私たちの小型ASVは、海の上で長時間自律航行を行うため、できるだけ軽く、かつ高い剛性と耐久性が求められます。人が乗らないぶん、波の衝撃や風への姿勢制御、メンテナンスまでをすべて構造でカバーしなければならない。つまり、素材そのものが“信頼性の要”なんです。

ASV本体を前に議論を交わすUMIAILEとスターライトのエンジニア

:その点、BARIASは非常に軽いのに丈夫で、波の衝撃にも強い。「これは自分たちの船体にぴったりだ」と感じました。

:スターライトでは、設計の初期段階から一緒に議論しながら形をつくっていくケースも多いのですが、UMIAILEの場合も、まさに“スペック前”からやりとりが始まったんですね。

:はい。普通は仕様書や図面が固まってから「この素材でできますか?」と相談する流れなんですが、スターライトはアイデア段階から入ってくれる。「この形なら成形上こういう工夫ができる」とか、「その強度なら別のアプローチもありますよ」といった提案が本当に心強かったです。

:素材の供給という枠を越えて、“どうしたら実現できるか”を一緒に考えていたわけですね。

:まさにそうです。こちらがまだ言語化しきれていない構想に対しても、「こういうことをやりたいんですよね?」と先回りしてくれる。同じチームの延長線上にいるような距離感で支えてもらいました。

:私たちも、板井さん達の挑戦の中に、自分たちの技術がどう貢献できるかを試すような感覚があったと聞いています。そうした関係性に“共創”の醍醐味をすごく感じました!

:本当にそう思います。技術的な部分だけでなく、「どうすればUMIAILEの目指す社会実装が近づくか」を一緒に考えてくれる。僕らにとって、スターライトは単なる“協力会社”ではなく、夢を一緒にかたちにしていく仲間なんです。これ、お世辞じゃなく、みなさんに伝えたいことなのでカットしないでくださいね!

高度ゼロメートルの人工衛星をつくる

:ここまでお話を伺っていると、UMIAILEは“海を観測する”という行為そのものを新しく定義しようとしているように感じます。板井さんが見据える未来とは、どんな世界なのでしょうか?

私たちは「海の見える化」を掲げていますが、これは単にデータを集めるという話ではありません。海は地球の70%を占めているのに、実際に把握できているのはほんのわずか。たとえば気象観測や地殻変動、漁業資源―どれも海の上の“リアルタイムな情報”が足りていないんです。

:宇宙は遠いようでいて、人工衛星によって常に観測が行われています。一方で、私たちの足もとにある“海”のほうが、むしろ観測が難しい。見えない・行けない・届かない、その“空白”を埋めるのがUMIAILEなんですね。

:まさにそうです。だからこそ、私たちは“小さな無人ボート”で、広大な海をくまなく観測できる仕組みをつくろうとしています。言ってみれば、「高度ゼロメートルの人工衛星」のような存在です。

:人工衛星が宇宙から地球を見守るように、UMIAILEは海の表面から地球を観測する。すごくロマンのある発想ですね。

:ありがとうございます。技術的な挑戦ももちろんありますが、それ以上に、「誰も見たことのないデータを見たい」という純粋な好奇心が大きいです。そして、そのデータが地球の未来や、次の世代の暮らしを守ることにつながるなら、これ以上のやりがいはないと思っています。

:研究や社会インフラなど、いろんな分野での活用が期待できますね!

:はい。今は地殻変動観測のような研究用途が中心ですが、将来的には防災・環境保全・エネルギーなど、さまざまな分野で活かせると思っています。小型ASVが当たり前に海を行き交う社会になれば、地球の“呼吸”をもっと近くで感じられるようになるはずです。

:海の課題解決を通して、地球全体の未来を見据えているんですね。

:そうですね。僕らが目指しているのは、単にテクノロジーを進化させることではなく、「人と自然がもっとフラットにつながる社会」をつくること。UMIAILEの活動が、次の世代にとって“海が身近にある未来”を拓くきっかけになればうれしいです。