油や電気ではなく、水で機械を動かす。NACOL株式会社(以下、NACOL)が開発する水圧駆動システムと、スターライト工業のトライボロジー技術による樹脂減速機。この二つの技術が出会い、水中や高放射線環境、食品工場などの従来の駆動方法では対応が難しい環境に向けた新たな駆動システムの提案を進めます。NACOL杉村副社長とエンジニアの下山氏に、共創活動への期待を伺いました。

杉村 健(左)
代表取締役副社長。ドイツ・アーヘン工科大学大学院博士課程修了。工学博士。油圧機器の開発に携わった後、水圧駆動システム「NADS(ナデス)」の立ち上げを主導。長年培ってきた油圧技術を基盤に、水圧を油圧・電動に並ぶ新たな駆動技術として社会に広げることを目指し、技術開発と事業展開を推進している。
下山 弘高(右)
技術部 設計課長。静岡大学大学院 総合科学技術研究科理学専攻(旧・理学研究科 修士課程)修了。「水圧モータや水圧駆動式クローラロボットの設計・開発を担当。「技術はどう見せれば伝わるか」という視点で、展示会の企画や動画・SNS制作にも携わり、水圧駆動の普及と用途開拓に取り組んでいる。
「油を水に置き換える」その発想から、すべてが始まった
スターライト(ス):NACOLは70年以上ものあいだ油圧技術で社会に貢献されてきましたが、なぜ水圧での挑戦を始めたのですか。
NACOL杉村(杉):当社は長年、アキュムレータをはじめとする油圧機器を手掛け、蓄圧した力を活用して設備を効率的に動かし、エネルギーの有効利用による省エネにも貢献してきました。油圧産業は戦後大きく成長し、さまざまな機械や設備を支える花形分野でした。ただ、近年は市場が成熟し、このままでは将来的な成長が難しくなるという危機感がありました。
そこで約8年前、「新しい事業を立ち上げよう」という話になりました。とはいえ、私たちが突然、半導体や電子部品などの新たな分野へ進出して成功できるとは思えません。だからこそ、自分たちが長年培ってきた技術を生かせる領域を考えた結果、たどり着いたのが、“油を水に置き換えてみよう”という発想でした。
ス:自社の強みを活かせる新たな可能性として、水圧に着目されたということですね。
杉:油圧と水圧は、どちらも液体の圧力で動力を伝えるという基本原理は同じです。
そのため、油圧機器で培ってきた設計やシステム提案のノウハウを活かせると考えました。
一方で、水と油の違いとして、水は粘性が低く液体が固体表面に広がりやすく、潤滑性もありません。そのため、水と組み合わせて使う部品には、油を使った場合にはない過酷な耐摩耗性や耐久性が求められます。水圧駆動技術の実用化において、大きな課題でした。
ス:水を使う設備は錆びるので、いろんな配慮が必要ですよね。
杉:水圧駆動という考え方自体は新しいものではありません。環境配慮も含めて油圧よりも水を利用すべきとは考えられていました。ただ、先ほどお話ししたような課題を克服する材料や加工技術がなく、結果として油圧が主流になっていったんです。
しかし近年は、材料や加工技術が飛躍的に進歩し、私たちが知らない技術がたくさんあります。そうした技術の組み合わせで、今なら実現できるかもしれない。そう考えられたことが、水圧駆動へ挑戦する大きな後押しになりました。

ス:媒体を油から水に変えることは環境負担低減にもなりますね。
杉:まさにその通りです。水は日本に豊富にある資源ですし、万が一漏れても環境負荷が小さいという特長があります。だからこそ、食品工場や海洋・水中、高放射線環境など、油圧ではオイルミストが気になる、電気では防爆性の課題となるなどの現場で力を発揮できると考えています。私たちは、水圧を油圧や電動と並ぶ“当たり前の選択肢”にしていきたいと思っています。
技術は、お客様と社会が育ててくれた
ス:クリーン環境はもちろん、原子力設備や海洋開発などでも水圧技術の活用が期待されています。
杉:食品や医薬品工場では、きわめて高いクリーン性が求められます。また、原子力施設のように高い防爆性が求められる現場や、下水道インフラのように可燃性ガスへの配慮が必要な現場でも、水を作動流体とする水圧駆動は安全で有効な選択肢になります。
さらに海洋分野では、水環境との親和性が高いことも、水圧ならではの特長です。このように、水圧だからこそ強みを発揮できる場面がどんどん増えてきました。このように、私たちが用途を広げたというよりも、社会の変化が、水圧の新しい役割を教えてくれたんです。
NACOL下山(下):展示会などでお客様と話をしていると、油圧や電動での困りごとをたくさん伺います。そうした対話の中から、「こんなところにも使えるんじゃないか」という新たな気付きが生まれることも多いですね。それが、次の開発につながっています。
杉:そんな経験から思うのは、エンジニアは技術だけを見ていてはいけないということです。社会で何が起きているのか、お客様が何に困っているのか、常にアンテナを張っておくことが大切です。実際に、お客様の声を聞く中で「これは売れない」と判断して、開発をやめたテーマもあります。携わってきた人にとってはつらい決断ですが、限られたリソースをどこに集中させるかを判断することも、リーダーの大切な役割です。技術は、自分たちだけで育てるものではなく、社会の変化やお客様との対話を重ねながら磨き上げていくものなんです。だからこそ、外へ発信し、フィードバックをいただくことが欠かせないと思っています。
「やっと見つけた!」展示会で始まった、スターライトとの共創
ス:スターライト工業との出会いはどのようなものだったのでしょうか。
下:水圧モータを搭載したクローラロボット(ベルト状の設置部品で不整地面を走行するロボット)を開発するにあたって、最初に探していたのは樹脂材料でした。金属よりも軽く、錆びない材料を使えば、ロボット全体を軽量化できますし、メンテナンスの回数も減らせます。水の中や過酷な環境でも、できるだけ長く使えることも重要でした。
そんなときに展示会で、水環境でもすべりがよく機械特性にも優れた樹脂材料エスベアを知ったんです。その場で大きな期待を持ち、さらに、後日の打ち合わせでは、エスベア材を使った減速機ユニットも提案いただきました。その減速機ユニットはとってもコンパクトで、私たちが考えていたロボットにちょうど組み込めるサイズだったので、「これはドンピシャだ!いける!」と確信しました。これまで探し続けてきたものが、運命的に現れた、そんな感覚でしたね。
ス:こんなに喜んでいただけると、私もとても嬉しいです!

下:技術や使い方は、カタログや図面だけでは十分に伝わりません。実際に動く様子を見ていただくことが大切だと考えています。そこで、水圧駆動システム「NADS(ナデス)」をクローラロボットという見えるカタチにして提案しています。
ス:私たちの減速機ユニットも、クローラロボットという具体的な使用形態にしたことで、“この技術で何ができるのか”が、より具体的に伝えられるようになります。
杉:技術は一社だけで完結するものではありません。共創活動は、自分たちだけでは思い付かない技術やアイデアに出会える。だから面白いんです。私は、こういう出会いこそが、技術開発の醍醐味だと思っています。
TECHNO-FRONTIER 2026(東京ビッグサイト)にて、
本対談で紹介した水圧駆動式クローラロボットを共創
展示いたします。ぜひ会場でご覧ください。
2026年7月15日(水)~17日(金) 9:30~17:00
モーション・エンジニアリング展
ブース番号 2-H35(スターライト工業株式会社)
※事前来場登録はこちら↗から。(当日受付はありません)

